自転車でツーリングをやりたかった頃は、スタンドを取り付けるなんてあり得ないと思っていた。けれどすっかり街乗りが気に入ってしまった僕は、とうとう自転車にセンタースタンドを取り付けた。
30年前から存在するスイス製のセンタースタンド、ESGE ダブルレッグスタンドを購入。
使っているうちに強風で倒れたことがあって、改めて「センタースタンド不要論」が芽生えた。けどそれは取り付け方がまずかったせいで、いまは気に入って使っている。
行きつけのスーパーに駐輪場がない
いつも少し困っている。
行きつけのスーパーに駐輪場がないのだ。暗黙の了解で、はたまた阿吽の呼吸で「ここに自転車を停めるのか」と利用客は感じ取っている。けれど駐輪場ではないから不便をする。
いや、駐輪場がないのは構わない。常識の範囲で空いてるところに停めればいい。なにが困ると言えば、自転車を立てかける場所がないことだ。
マイ自転車、SURLYのスチームローラーにはスタンドがない。しょうがねえなと、僕が肩を貸してやらなきゃ立てない。とうぜん、僕がそばにいないときはフェンスやガードレールを借りることになる。
にも関わらず、行きつけのスーパーには自転車を自立させるスタンドもなければ、立てかけやすい構造物もない。かろうじて一箇所だけ、そこしかないというピンポイントでスペースがあるぐらい。
それでいつもちょっと困っている。スチームローラー君にはそろそろ自立してほしい。さあ、スタンドを買う時が来た。
片足か両足か
スタンドは両足がいい。
片足に比べて安定感が高いというメリットもあるけど、どちらかというと「片足スタンドは嫌」というネガティブな理由から。
小学生のころ、それはもう「赤×黒」の組み合わせが大好きだった。赤×黒が世界でいちばんかっこいい色だと信じていたし、ルイージよりマリオで、ゼニガメよりヒトカゲだった。
ところが思春期に入ると、赤×黒を毛嫌いするようになった。大人になりたかった僕は赤×黒が好きすぎた反動で「赤×黒=子ども」「赤×黒を避ける=大人」というガキまるだしの発想に至っていた。本当に大人になった現在も、赤×黒を克服できていない。
さて、小学生低学年の僕は公園に行くにも釣りに行くにも、いつも黄色のマウンテンバイクだった。赤×黒が好きだったくせに、なぜ黄色の自転車に乗っていたかは覚えていない。雨ざらしの黄色い自転車を駆り出しては、左後ろに付いた銀色のスタンドを華麗な足さばきで「ジャキーン!!」と音を立てる。そしてグラウンドに向かって走り出したり、ブラックバスに気づかれないようソロリと歩いた。
何が言いたいかというと、「片足スタンド=小学生」のイメージが未だに脳裏にベットリとこびりついている。だから大人の証である憧れの両足スタンドを使いたい。
ESGE ダブルレッグスタンド
ESGEのダブルレッグスタンドを買った。飾り気はないけどなんだか信頼をおける、藤原とうふ店の店主のようなやつだ。このセンタースタンドはスイス製だけど、スイスに豆腐屋はあるのだろうか。
さて、ESGEにした理由はいくつかある。
- かっこいい
- 発売から30年の歴史
- 25kgに耐えるタフさ
- 愛車スチームローラーへの取り付け事例があった
かっこいいとか30年の歴史がいいとか、頑丈でたくさん荷物を積めるとかはそのままの理由。
そしてスチームローラーへの取り付け事例があるのはけっこう大事。スタンドの購入を検討しているうちに知ったのだけれど、ESGEに限らずセンタースタンドをうまく取り付けできない自転車があるらしい。タイヤとスタンドのクリアランスがなかったり、繊細なカーボンフレームだったりという理由みたい。
その点、ESGEのダブルレッグスタンドは安心できた。なぜなら愛車SURLY スチームローラーへの取り付け事例が豊富だったから。情報源は主に東京の自転車屋さんブルーラグ。
ノグチのセンタースタンドも気になる
とはいえ、即決できたわけではない。以下の不安があった。
- 高価
- 足の長さを調整しにくい
広島の自転車屋さんグランピーでは、ノグチのセンタースタンドをおすすめしていた。
ESGEのダブルレッグスタンドは金ノコで足を切断して長さを調節するしかない。その点、ノグチのセンタースタンドはESGEより安い上にもっとお手軽に足の長さを調整できる。
「安い方にしとけ」と心が騒ぐ。それでも僕はESGEのダブルレッグスタンドに決めた。具体的にほしい製品があるのに、価格で妥協すると必ず後悔すると僕の脳は知っている。
取り付け方
自転車屋さんブルーラグのYouTubeで、取り付け可能な車体について解説がある。動画内でもプレッチャー(ESGE)の同一製品を使っているからとても参考になる。取り付け方も動画で観れるから、ザッと流れを把握すると良いと思う。僕はそうした。
取り付けはすごく簡単だったし、難しいことはない。ただボルトを1本締めるだけ。
ザッとした流れ
ESGE ダブルレッグスタンドの取り付け方を解説する。ひとまず最低限の流れを書いたあと、つまづいたポイントや足の長さ調整など細かい部分に触れていく。
まずは本当にスチームローラーに取り付け可能かチェックする。「スチームローラーには付くよ」といくら言われても、実際にやってみるまでは不安なもの。「あの子、お前のこと好きってよ」と言われても返事をもらうまで安心できないのと同じ。
ドキドキしながらチェーンステーにプレートを挟んでみる。タイヤとの干渉はない。大丈夫、ちゃんと付く。これでセンタースタンド取り付けの95%はクリアしたも同然。
次は傷対策だ。プレートをそのまま車体に挟み込むとと、フレームが傷だらけになるのは想像に難くない。だけど、いざやってみると早く取り付けたくて傷対策を怠ってしまいそうになる。慌てない。
僕はプレートに革を貼り付けて傷対策をすることにした。下側のプレートに瞬間接着剤で貼り付けるだけ。アロンアルファを使った。
上側は付属の樹脂パーツがあるから対策不要。傷防止のためのパーツなのだろうか?プレート本体には滑り止めなど無いから、黒いパーツで保持力を高めているということか。
念の為、ブリッジにも革を巻いておいた。
STEAMROLLERはタイヤとのクリアランスに余裕がなかったから、センタースタンドはできるだけ前に詰めて取り付けたい。だからブリッジにボルトが当たりやすい。
革が重なる部分に接着剤を塗ってピタッと。車体に接着剤が付かないように注意。
あとはタイヤやフレームとのクリアランスに気をつけつつ位置を決め、プレートでチェーンステーを挟んでボルトを締め込んでいくだけ。
これでひとまず完成。足が長くて不格好。だけど、使える。
取り付け角度に気をつける
ある日、どこでも自立する自転車に嬉しくなって、いつもと違う道で帰った。初めての公園を訪れて、わざわざ広場のど真ん中に駐輪して「自転車が立った!自転車が立った!」と写真を撮っていた。すると突然、目の前がスローモーションになった。驚く間もなく、ガシャンという音とともに自転車が倒れた。
僕の自転車には壊れやすい変速周りのパーツがないシングルスピードだから、倒れたとて無傷だった。せいぜいハンドルのエンドキャップに傷が入ったぐらい。ショックだったのはセンタースタンドがあっけなく倒れたこと。ウキウキ舞い上がっていたところからズドンと落とし穴にハマったような感じだ。小学生のころ、落とし穴に憧れてせっせと穴を掘っていたけど、自分がハマると楽しくない。
取り付けはすごく簡単だけど、取り付け角度には注意が必要。上の画像では、後ろからみた時に左右の足の張り出しが違うのがわかる。これでは右側に倒れやすい。さっきのシチュエーションでも右側に倒れた。
スタンド収納時にタイヤとのクリアランスを大きく取ろうとした結果、このようなアンバランスな取り付けになってしまった。文章では伝わりにくいと思うけど、買って触ればわかる。
ちなみに調整後は、さらなる強風でも倒れなかった。
フレームの傷対策は革でする
初めて取り付けたとき、以前買った革を部屋の奥底にしまい込んでしまっていたから、ひとまずパッと目についたウールのフェルトで試してみた。けどすぐに剥がしてしまった。
靴を改造するためにフェルトをボンドで貼り付けたことがある。結果、表面の繊維だけはくっついたけど、99%はあっけなく剥がれてしまった。もし走行中にフェルトが剥がれてスタンドが緩むと危険だ。だからしっかり貼り付いてくれそうな革がいいと思う。
いざ作業を始めると、接着剤が乾く時間さえ惜しくなる。だから瞬間接着剤がおすすめ。
ちなみに1か月使ったあとのフレームの様子がこれ。少し塗装がえぐれているけど、この程度で済んだとも言える。フレームにテープを貼ったり、分厚い革を選べば、無傷で取り付け可能だったかもしれない。
モンキーレンチより小ぶりな工具がおすすめ
取り付け方法をひとことで言ってしまうと、チェーンステーをプレートで挟んでボルトを締めるだけ。
だけどモンキーレンチはゴツくて、ホイールを外さないとボルトを回せなかった。シートチューブとタイヤにモンキーレンチがつっかえてしまう。スタンド位置の微調整で何度か付けたり外したりを繰り返したから、いちいちホイールの着脱をするのがめんどうで仕方なかった。
そこでスッキリしたレンチを買った。ホイールを外さずともセンタースタンドの付け外しが可能になり、作業性が劇的に向上した。
センタースタンドのボルトは緩みやすいらしいから、ホイールを外さなくてもボルトの増し締めをできるレンチは安全のために必要だと思う。増し締めのためにホイールを外さないといけないなら、メンテナンスをサボってしまう。緩み止め液も塗布するとより良いと思う。
脚をカットして長さを調節する
脚をカットせずとも、しっかりと自立してくれた。
けれどセンタースタンドを出すのに足の長さの分だけ後輪を大きく引き上げないといけないから、手返しが悪いような状態だった。そして何よりカッコ悪い。自転車の出で立ちとしては不自然で、写真映りも悪い。
長さを調節する方法は切るしかない。
長さ調節がめんどうで1か月はカット無しで使っていたけど、もう我慢ならんということで頑張った。
いざやってみるとあっさり終わった。500円の安い金ノコで、片足1〜2分でカットできた。恐れることは何もなかった。
足には目盛りがあるから、左右の長さはだいたい揃えることができる。切り口はヤスリで整えるつもりだったけど、思いの外きれいにカットできてヤスリは不要なほどだった。
絶対に注意が必要なのは切りすぎないこと。
あっさりカットできるから、焦らず少し切っては高さチェックすると良い。決して勝負を急がないのがコツ。お気軽に長くしたり短くしたりできるセンタースタンドは便利だけど、切って調整するという方法がシンプルで美しいと思う。
限界まで短くすると自転車が水平に自立するから見た目が良くなる。けど今後、650bから700cのホイールへ大径化する可能性や、太くて外径が大きいタイヤヘ交換する可能性も考えると、ギリギリの長さを攻めるのは怖い。しばらくは余裕を持たせた長さにしたほうがいい。
付属の樹脂パーツがダサい
取り付けてみると付属の黒い樹脂パーツがかなり主張する。これがなかなかダサい。「あなたのことを傷つけません!支えます!」と大げさに訴えられても、逆に胡散臭くなる。もっとさり気なく、スマートな気遣いをしてほしいもの。
それに取り付け当初、樹脂パーツがクランクの一部と干渉してペダルを回せない状態だった。カッターで削って干渉を回避したものの、気持ちがいい状態ではない。
これらの対策は樹脂パーツを外して革を貼ればいい。だけど今度はボルトが長すぎて車体に固定できなくなった。帯に短したすきに長し。いや、樹脂は分厚しボルトは長しといったところだろうか。
重い腰を上げて、ようやく対策する気になった。付属のボルトを安物の金ノコでカットした。これが硬くてセンタースタンド本体をカットするより苦労した。時間は計っていないけど、10〜15分ぐらいギコギコしていたと思う。ホームセンターに買いに行くほうが楽だったかもしれない。
そして樹脂パーツの代わりに革を貼り付ける。
これで樹脂パーツは不要になり、スマートになった。ただしフレームに食い込んで滑り止めになるようなギザギザや突起がないから、固定が緩んでいないかなど点検はしっかりしたほうがよさそう。
使った感想
ESGE ダブルレッグセンタースタンドを取り付けて1か月ほど使って感じたこと。
よかったところ
- 駐輪する場所に困らなくなった
- 荷物を積載しやすい
駐輪場はあるけどスタンドがない、というお店がある。ママチャリに乗ったみんなは指示通り駐輪場に停めているのに、僕だけ少し離れた場所にあるフェンスに立てかけて駐輪していた。そのことに少し後ろめたさを感じていた。だけど、そんなこと気にしなくてよくなった。ママチャリと肩を並べて駐輪できるようになった。もちろん、上述した行きつけのスーパーでも堂々と立っている。
僕は荷物の積載が大嫌い。キャリアにカバンを載せて荷崩れしないように、そして自転車が倒れないように気を遣いながらゴムロープで固定するという一連の動作がとにかくめんどくさい。
だから荷物をポンと載せるだけで済むWALDのかごを使ってる。かごだけでも積載はグンと楽になったけど、センタースタンドのおかげでさらにパワーアップした。かごのおかげで荷崩れを、センタースタンドのおかげで自転車が倒れるのを気にしなくてよくなった。かごにセンタースタンドの組み合わせは、まさに鬼に金棒。街乗りには絶大な威力がある。
メンテナンススタンドは兼ねない
一方で微妙な点もある。
- メンテナンススタンドは兼ねない
- 倒れた
ダブルレッグセンタースタンドを買ったとき期待したことがある。それは室内保管時に使っている邪魔なメンテナンススタンドを撤去できる可能性だ。センタースタンドがあれば自転車は自立するから、保管にもメンテナンスにも他のスタンドが不要になると思った。
けど、その夢は見事に打ち砕かれた。センタースタンドを出した状態ではクランクが1周しか回らない。スタンドとガツンと当たってしまうからだ。
シングルスピードの自転車だからクランクをくるくる回してメンテナンスすることはあまりないけど、ちょっと残念だった。
あと片側に収まるシュッとした構造が仇となることもある。スタンドを出したいときに家具や空気清浄機とぶつかりながら自転車の反対側に回り込まないといけなかったりする。
とくに狭い部屋だと取り回しが悪い。今のところは、センタースタンドで室内保管しつつ、必要に応じてメンテナンススタンドを使っている。メンテナンススタンドを使わない時はジャケットやメッセンジャーバッグを引っ掛けて有効活用している。
とはいえ、これまで通りメンテナンススタンドを使えば済む話だから、そんなのは些細な問題。本当に問題なのは強風で倒れたこと。
倒れないように対策する
上述の取り付けの項目で書いた通り、強風で倒れたことがある。この倒れた一件でセンタースタンド不要論が少し芽生えた。これまでスタンドがなくてもなんとかなっていたし、壁に立てかけて倒れたことは1度もない。僕はセンタースタンドに夢を見すぎていたのかもしれない。
だけど、ここでESGEのせいにしててはいけない。自分のミスを疑い、運用方法を見直してみる。
- 平らな地面を選ぶ
- 足ができるだけ平行になるように取り付ける
- フロントタイヤをロックする
平らな地面を選ぶのは当たり前。安定感のあるセンタースタンドとはいえ、過信はしない。土だと目に見えないような凸凹があるだろうし、荷物を積載して車重が増えれば地面にめり込んで不安定になっていくはず。
そのうえで修正したのは取り付け角度。たまたま気づいたのだけど、スタンドの左右の張り出しが違った。これではダブルレッグセンタースタンドの安定性能を活かせない。
脚幅が左右均等になるようすぐに修正した。こういう細かな調整はいちいちタイヤを外していられないから、やはりスタンド用に17mmのメガネレンチを買っておいて良かった。
アメリカのアウトドアブランド、Janddのフレームバッグはダウンチューブと固定するための長いストラップがある。
これを活用して、フロントタイヤをロックするTIPSを思いついた。ダウンチューブでなく、リムを通して固定するだけ。風が弱い日にここまでする必要はないと思うから、強風対策のひとつの手段として備えておく。
あとはあまりに強風ならセンタースタンドは使わずフェンスに立てかけるとか、フェンスと自転車をワイヤーロックで固定して倒れないように支えるような手もあると思う。
そして先日、強風かつ広場の土の上でリベンジしたところ倒れなかった。以前より風は強かったのに。その日に対策したことといえば、平らな地面を選び、センタースタンドの取り付け角度を調整したことぐらい。つまり自転車が倒れたのは俺のせいだったね。
まとめ
- どこでも駐輪可能になった
- 荷物が積みやすい
- 取り付け角度、地面、強風に気をつけないと倒れる
- かごとスタンドで最強の街乗り自転車に近づいた
子どもの頃は黄色のマウンテンバイクに乗っていたし、赤が大好きだった。いまも黄色の自転車に乗っていて、赤色のバッグを取り付けている。大人になっても何も変わってないやん。
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